海鳴り 最終話

今も、

聞こえ続けている。

止むことなく、

聞こえ続けている。

遠く、

近く。

(何だ…?)

(日曜日だっていうのに、朝から…)

はい。もしもし…

「あー、わたし。ごめんね、まだ寝てた?」

寝てたよ…なに?

「んー、何ってほどのことはないんだけど。どうしてるかなって」

別に、どうもしてないよ。変わりない。

「そうなんだ?ふーん」

あの、俺さ。昨夜仕事で帰りが遅くって…まだ眠いんだけど。

「なによー、せっかく電話してるんだから少しくらいつきあってよ」

なんだよ…じゃあ早く用件を話してくれよ。

「あのね?」

うん。

「わたしね?」

…うん。

「やめたの」

…何を?

「何って、結婚よ。この前話したじゃない。忘れちゃったの?」

忘れてないよ。…結婚をやめたって、どういうこと?

「どうもこうもないよ。ただ、やめたの。それだけ」

ただ、って…そんな簡単なもんじゃないだろ?

「いいのよ、そんなもんなの。アイツにとっても、私にとってもね」

だって、式場も決まったって…。親御さんにも挨拶したんだろ?

「ああ、アレ?嘘。ぜーんぶうそ」

…何があったのか、言えよ。

「何よ、それ。何もないよ。嘘だっていってるでしょ」

…言えって。

「別に、関係ないんでしょ。私のことなんて」

そりゃまあ…そうかもしれないけど。心配になるじゃないか。

「良いじゃん、そんなこと。どうだって。それよりさ、」

良くないよ、さっさと言…

「わたしたち、もう一度やり直せないかな?」

(今、何て言った?)

「あのね、正直に言うとね。この前あなたと会って、そのこと帰ってから彼に話したの」

(それは、その言葉は、)

「”元彼と会ってた”って言ったら、彼もう怒っちゃって。だって、そんな怒ることでもないでしょ?」

(あの頃、僕が、)

「”ヨリを戻すつもりか”なんて言うから、わたしもカッとなっちゃって。”そうよ”なんて言っちゃったの。売り言葉に買い言葉って、ああいうのをいうんだね」

(どれだけ…)

「ねえ、聞いてるの?」

…聞いてるよ。

「だから、ね。いっそのこと、復縁しちゃおうよ。わたしたち」

…。

「ダメ?わたしのことなんて、もう何とも思ってないの?」

(忘れられるわけ、)

「そうだよねー、もう忘れられてしまった女だもんね、わたし」

(いつの間にか、あの海鳴りが、耳のすぐそばで聞こえている)

「忘れられるわけ、ないだろう?!」

瞬間、大声が出た。自分でも、声の大きさに驚いてしまったくらいだ。

「…え?」

受話器の向こうで、彼女が動揺しているのがわかる。

「忘れられるわけない、って言ったんだ。お前のことを。今、”やり直せないか”って言ったよな?お前と別れてから、俺がどれだけその言葉を待っていたか。わかるか?」

自分が、興奮してしまっているのに気づく。

だが、どこかで冷えている。

「それじゃ…」

「でも、」

ダメなんだよ。

「ダメって…」

ダメなんだ。

「どうして…?」

よく聞いてくれよ。

「この前は、”忙しくてそれどころじゃない”なんて言ってたのに。本当はもう、他に…」

違う。そうじゃないんだ。

「じゃあ、どうしてよ!!」

今、俺には、やらなきゃいけないことがあるんだ。

「嘘よ!もうわたしのことを何とも思ってないなら、そう言えばいいじゃない!」

俺はね、後悔はしてないんだ。

「何よ、それ?」

お前と一緒にいたことも、

はなればなれになったことも。

「…。」

うまく言えないんだけど。

「…。」

(電話の向こうで、彼女がすすり泣いている)

お前のことを、忘れることなんてできない。”やり直そう”なんて言われて、正直嬉しかったよ。

(でも、)

俺はもう、決めたんだよ。前を向いて、生きて行くって。

「わたしは、」

え?

「本当は、止めて欲しかったの…最初から。」

…。

「でも、何も言ってくれないから」

…。

「何も言ってくれなかったから!」

俺は、

「何よ、格好いいことばかり言っちゃって!わたしがどれだけ苦しかったか、」

お前の幸せを、

「わかるっていうの?!」

祈っているよ。

「何よ…バカ…」

今までも、これからも。ずっとね。

「バカ…」

幸せに、なってくれよ。

大丈夫、お前ならできるよ。

「…。」

元気でね。

 

(ちょうど、電話のバッテリーが切れた)

(海鳴りは、)

(いつしか聞こえなくなっていた)

 

 

————————————

はい。

というわけで、「帰ってきたユウキ日記」番外編でしたが。

妄想炸裂で落書き的な、まあアレでソレな感じですけどね。いちおう第2段ということで、前回よりはハードルを上げてみました。そのせいで読みにくい箇所が多々あるかと思います。

書き始めたからには最後まで書かなきゃならんだろ、という気持ちだけで書きました。

こんなことばっかりやってると、またG犬君に「お前はいったい何をやる人なんだ」と言われてしまうので。次回からは通常営業に戻ります。本業はミュージシャンです。獣医しゃんではないので注意が(以下略)

ああでも、次回はあの人が出てきそうな予感。というか悪寒。

くどいようですが、フィクションですよ。

 

 

 

 

 

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